国際関係史をもっと知りたい人へ


「国際政治を始めよう、まずは戦争の条件を探すことからだ」

 

 著名な国際政治学者藤原帰一先生の言葉です。川嶋ゼミが扱う「国際関係」という環境は必ずしも安定が約束されている世界ではありません。ここでは下の図のようにA国とB国という二国間関係があるとすればどのような関係があるのか、A国を日本としたとき、B国がアメリカだとすれば、それは70年以上続く戦略的なパートナーシップです。しかし、北朝鮮だとしたら、A国からすれば未知の世界であると同時に不定期で軍事目的の飛翔体を発射する「脅威」国。そして、B国が中国だとすれば、1つの島を巡って争う、緊張関係であり、同時に日本が最も依存している輸入国です。国際政治学や外交史などは、地球に200以上の国家が存在するなかで、これらの諸関係を整理して、「国際関係」下でどのような「秩序」が形成され、またそれらが破壊される「戦争」という現象もまたこうした関係から原因を解き明かそうとしています。

 

 ですが、世界はもちろんこんな単純ではありません。たとえば、B国がフィリピンのような国だとすれば、現在のドュテルテ大統領とISが対峙しているような他宗教間での紛争状態にあります。同様にB国をイラクだとしましょう。日本は過去に自衛隊をイラクに派遣していましたが、今では北部ではクルド人勢力やシーア派、南部ではスンニ派による自治が成立している一方でバグダットがある中部ではシーア派とスンニ派が統治を巡って争い特にはテロという手段をもって抗争が続いています。テロの問題も場合によってはフランスのように飛び火することもありうるかもしれません。これらの状況は、A国が日本でないにしろこのような状態を静観することはできない時代になってきました。では、日本しかり、アメリカ、イギリスなどはイラクやフィリピンのような国にどのように関与していけばいいのでしょうか。こうした疑問が生じてくるでしょう。状態を図式化すると以下のように表せられるのではないのでしょうか。

 

 また同時に「国際関係」を戦争か?平和か?だけでは語れない時代にもなってきました。先の図のA国民とB国民の関係で終始していた経済の問題も次第に国家の問題、ひいては「国際関係」の問題へとなっていきます。日米貿易摩擦、リーマンショック、TPPこれらの問題に対処するにはA国からB国民や、B国からA国民との関係というものも生じてきました。こうした問題の「広がり」も巷で言われている「グローバリゼーション」の一側面としてとらえることができるのではないのでしょうか。
 

 この問題を川嶋先生の専門であるヨーロッパに目を向けると、問題はさらに複雑になります。ヨーロッパはドイツやフランスの国家の上位にEU(欧州連合)と呼ばれる国際機関が存在し、その加盟国に政治、経済、社会的な影響をもたらしています。逆にいえば、加盟国や加盟国の国民の危機はEUやその加盟国と加盟国国民を巻き込むヨーロッパ規模の危機にもなりえます。よい例は、ギリシアの財政破綻に伴うユーロ危機があげられましょう。ヨーロッパのような「国際関係」は以下のような様相を呈してきます。もはや図式化する意味がないくらいに複雑です...。

 

 もちろん、これはヨーロッパのみではなく、問題によってはEUのような機関が国際連合となったり、世界銀行となったりするかもしれません。こうした複雑の「国際関係」の有様をA国とB国と2国間関係に限らず先の図のような広がった背景には地球規模の課題が生じてきたことも特筆すべきでしょう。たとえば、地球温暖化、エネルギーの枯渇、国際犯罪、サイバー空間の問題etc…これらの問題はA国とB国の「外交」や「国際政治」だったり、A国民とB国民との「国際経済」や「国際社会」だったりで整理することはまず不可能でしょう。政治経済学部の川嶋先生の講義はその昔(といっても10年ほど前)は「外交史」という名称でしたが今は「国際関係史」という名前になったのも不思議ではありません。
 

 川嶋ゼミが行っている「国際関係史」はこうした政治、経済、社会という様々の要素の入り組んだ「国際関係」を「歴史」という視点で整理することで現代の諸問題を整理しようとする試みと言えます。