国際関係史とは?

 一概に「国際関係史は国際関係論の一分野であり、歴史的な視座から国家間関係を見ていく」なんて言ってもおおよそピンとこない人は多いでしょう。こういうときは身近なものからみていくとよいかもしれません。

 そこで、普段居酒屋などでお世話になっているビールから「国際関係史」とは何かを見ていきましょう。

 

 

 日本でビールといったらアサヒやキリンといった麦芽・ホップ・大麦のみで製造されたビールが一般的です。しかし、海外のビールにはときおり果物が入ったビールも存在します。代表的なのは「ヒューガルデン」です。「ヒューガルデン」はベルギー製のビールで、上記の成分以外にオレンジが含まれており、さらにアルコール度が5%台とお酒の弱い人が多い川嶋ゼミでは大変飲みやすいお酒です。

 

  

 このお酒は製造国がベルギーですがこのビールをドイツに輸出する場合を考えていく場合に、関税の問題かもしれません。しかし、貿易を円滑に進めるうえで重要なのは関税だけではありません。現地国の法規制に合わせて製造しなければなりません。ドイツには「無添加要件」と呼ばれる食品規制が存在し、麦芽・ホップ・大麦の3点以外が含まれたお酒は「ビール」と表示して販売はできないとされています。すると、「ヒューガルデン」はドイツで販売できないことになり、輸出できるようにするにはベルギーとドイツで規制緩和を求めた交渉を行わなければならなくなります。本来、ベルギーとドイツの間で交渉することになれば、人口が多く、市場規模が大きいために交渉のテーブルではドイツのほうが力を有してはいますが、ヨーロッパにはEUという、一部分の分野において国家よりも強い力を持つ機関が存在し、EU裁判所によってこうしたビールの流通に関して判例があります。

 この場合だと、規制を行う上でたとえ果実を添加物で加えたとしても健康を害するものではないことが科学的に裏付けられていることと、ベルギー製の輸入品に対して製造過程に関する規制をここで適用することができないことから、自由な商品流通を阻害するとして果実入りビールのドイツ流通を認めました。これによって、ヒューガルデンのようなビールもドイツの規制を乗り越えて輸出ができるようになったわけです。

 

 

こうした話をみていくと「国際関係」で共通のルールを作る、もしくは乗り越えることの難しさも同時にわかってきます。先の例の場合はEU裁判所が解決にむけた判決を出していたわけですが、EU外であれば国よりも強い権限を有した裁判所が存在しないため、ルールは国と国同士の話し合いでしか決まりません。すると先の例と違って、個別国家の力や認識の違いや個別国家内の既得権益団体の力などがルール形成に影響を及ぼしてきます。実際に日本で流通しているヒューガルデンは日本とEUとの通商協定に基づき、EU圏内と比べ高い関税がかけられています。

 

 このように、流通規制がなく自由に参入できるならば、市場原理に任せればよいので、経済学科の「国際経済学」「国際経済史」「国際経済政策」などの分野を学べばよい話です。また、ベルギーとドイツでどのような政治的関係があるのかを考えるならば「国際政治学」の視野からみていけばいいわけであります。しかし、先の例に沿うと「ドイツのビール販売店」、「ドイツの消費者」、「ベルギーのビール生産者」のみならず「ドイツ政府」「ベルギー政府」、さらに「EU」と多様なアクターが存在し、こうした多様なアクターから成り立つ現在の「国際関係」を政治や経済のみならず様々な視点をみていき(この例に沿えば、ドイツ、ベルギーのビール文化の違いや小売り事情など)、過去に原因を求めて探り、整理していく学問が川嶋ゼミでやっている「国際関係史」です。

 

 

「(歴史とは)現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります」

 

 

 川嶋ゼミではまず最初にE.H・カーという国際政治学者の『歴史とは何か』という本を読むことからスタートします。この本に書かれている先の引用にあるように、EUがどのように形成され、EUとイギリスはどのように関わってきたのか?という現在をみるために過去をみる必要性が生じてきます。  

 この疑問を解明するためには、政治・外交的な観点のみならず、イギリス1国やEU全体の行政や社会、経済、文化などの側面を包括的な観点から説明していく必要があるでしょう。「国際関係史」は、複雑になっている現代の「国際政治」「国際経済」「国際社会」「国際文化」の諸問題を「歴史」という視点から整理していく試みといえます。

 

 さらに「国際関係史」について知りたい人は"国際関係史をもっと知りたい人へ"をごらんください。